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小さく震える体を抱きしめてやりたい。
そう思っているのに俺の手は全く持ち上がらなくて、泣いてる彼に何もしてやれなかった。
( ああ、強い鬼道ちゃんでも泣く時があるんだな )
鬼道ちゃんだって人間だし、そりゃ涙を流すだろう。
だけど、実際目の当たりにするのは初めてで。
当たり前の事を知らなかった俺は少し驚いている。
( 鬼道ちゃん、 )
その言葉が出ることは無く、喉に張り付いたまま口だけ開いた。
俯いて、声を殺して泣きつづける可哀相な彼。
疎ましい。
( だけど )
なんとかして慰めてあげたいのも事実。
小さい体の中に溜め込み続けたら爆発してしまいそうで怖いのだ。
『鬼道』
漸く出た言葉は短い、だけど必死に絞り出したもの。
一瞬体をびくつかせ、彼はゆっくり振り向いた。
ゴーグルをしていない赤い瞳は直接俺を見る。
『……』
考えていた事は全て吹き飛び、頭の中は真っ白。
何を言えばいい、そもそも、何を言っても無駄なんじゃないか?
いつまでも鬼道ちゃんを縛り続ける影山が憎くて憎くて仕方ない。
伸ばしかけた手を引っ込めて。
開こうとした口は何も紡がない。
『一緒に、泣こう、か』
涙を含んだ小さい声で鬼道ちゃんがそう言った。
そして自分も泣いてる事に漸く気付く。
冷たい水が頬を伝ってぱたぱたと床に染み込み、どうやっても止められない。
なんだかんだで俺も影山が好きだったのだ。
好きと言っても恋愛感情の好きではなく、所謂、信頼というか。
『ひっ…ぅ…!』
本格的に泣き出した俺を鬼道ちゃんが抱きしめる。
ああもう、俺が抱きしめたかったのに。
二人で一晩中泣いた。
擦りすぎた目が痛くて、声は枯れて、喉も渇く。
それでも涙は止まらなくて、ずっと泣きつづけた。
ひとつになるよう、抱き合いながら。
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