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ピンク調の内装、香の甘ったるい匂い。
キラキラ輝くデコレーション、ふわふわのぬいぐるみ達がこちらを見ている。
『…きもちわりー』
顔をしかめて正直な感想を吐き出すと、俺をこんな異世界に連れて来た張本人…鬼道は情けなく眉を下げた。
『付き合わせてすまない…』
全くだ。
『しかし、もうすぐ春奈の誕生日だから…』
だからってなんで俺。
他のマネージャー達に頼んで、一緒に来ればいいじゃないか。
俺だぞ。
不動明王だぞ。
最も“カワイイモノ”と縁遠いだろうが!
まだ吹雪や風丸の方が、よっぽど似合う。
『すまない、不動』
『謝ってる暇があるなら、さっさとお目当ての物探して帰らせろ!』
視線が痛いんだよ!
そう怒鳴ってやれば鬼道は慌てた様子でぬいぐるみを物色し始める。
顎に手を掛けて真面目に吟味。
こいつは本当に妹が好きなんだな…。
にしても、だ。
妹の事になると普通じゃなくなるのはどうだ。
妹が怪我したら真っ先に名前を呼んで駆け付けるし、自分よりも妹を優先させるし。
影山の元にいた事実が良い例だ。
妹の事を言わなければ、かっこいいのに。
端正な顔立ち、性格だって良い。
才色兼備…ってやつだな。
それを口に出して教えてやるのは腹立だしいから何も言ってやらないが。
隣でぬいぐるみを漁る鬼道を盗み見る。
…ああ、ムカつく、かっこいい。
無駄に色の白い俺と違う肌。
ゴーグルの奥の赤い釣り目。
俺よりほんの少し背高いんだよなぁ。
『これにしよう』
『…さっさと買ってきてくれ。まじで』
『ああ、分かった!』
可愛らしいペンギンのぬいぐるみを抱えて、鬼道はレジへ駆けて行った。
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