4,眼鏡の使い方

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青空の下。 冬の寒さに震えながら、辺銀と並んで歩く。 「先生、何故は近所の図書館に行くだけで自転車を出してきたのですか?僕のことを馬鹿にしてるんですか?」 「あ、自転車あるのわかったんだ。」 「目が不自由な人は、耳がよい。それくらい聞いたことがあるでしょう。それと一緒ですよ。僕の世界はぼやけています。言わば目が見えないのと同じ状況。僕の耳も発達しているわけです。と言っても自転車をひいている音ぐらい常人なら誰でもわかると思いますがね。」 辺銀は鼻で笑うのを忘れない。 「自転車を持ってきたことに辺銀は絶対に感謝する。そう断言する。何が悲しくて年上である私が、君を馬鹿にするためだけに自転車を持ってくるんだよ。」 「それもそうですね。」 辺銀はあっさり返事をすると、また黙々と歩き出した。 おしゃべり好きの辺銀がこんなに黙々と歩いているなんて、奇妙だった。 それを本人に言ってみると悔しそうにこう言う。 「僕だって好きで黙々と歩いているのではありませんよ。話しながら歩きでもしたら僕はあっという間に自分の所在地がどこなのかを見失ってしまう。壁伝いに歩いて、全神経を集中させて、ようやく僕は一歩を踏み出すことができるのです。」 話したくても、話せない。 そういうことだった。 実際、辺銀の歩くスピードは異常に遅い。 一歩進んでは、立ち止まり。 二歩進んでは、じっとする。 これが初めて通る道ならば、このスピードでもわかるのだが、辺銀は毎日図書館に通っているはずだから道にも慣れているはずだった。 しかし辺銀は、私が三分で行く道を三十分かけて歩くのだ。 「辺銀の世界ってぼやけていて、輪郭も色もしっかりとしない中でもそれなりに見えているんだろう?そんな眼鏡かけているわけだし。」 「いいえ。道、という認識はできません。僕にはただの地面ですよ。それに眼鏡はほぼ飾り物のようなものなのです。」
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