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「あ、ドーモ。」
目が合ってしまいしどろもどろしてしまった挙句、
頭の悪そうな挨拶をしてしまった。
館長はというと、じろじろ不躾に私を眺めてくる。
「辺銀君…彼女は、あなたの彼女さんか何か?」
「そんなこと僕が許しませんよ。ただの友人です。」
いつでも一言多いのが辺銀康人である。
わかっていたけどさ、人として悲しいよ、
そこまで否定されると。
「じゃあ、素直に言っていいのね…え?本当に女の子?」
「ぐふっ」
辺銀が吹きだした。ぐふっ…て。
「い、一応、オンナノコですが。」
館長は何がそんなに楽しいのか、飽きずにずっと私を眺めている。
いや、これは眺めるっていうより、睨みつけてる?
「何その格好。家じゃないのに全身ジャージって。しかも頭もぼさぼさだし。」
せっかく最近辺銀の毒舌に慣れてきたと思ったのに、
新たな敵参上ですか?
「え、でも誰かに見られて困ることもないですし…」
「はあぁ」
溜息があからさま過ぎる。
「だから僕は言ったのに。『先生はきっと後悔しますよ』って」
辺銀の囁きは聞こえない。
「恥じらいってものがないの?図書館っていう公共の施設に来るのに、その格好は周りから見て不愉快よ。特に辺銀君なんて…あなたと一緒にいるってだけでマイナスになる。」
ひ、ひどい。
「あ、辺銀君、この人ね、ジャージを…」
「館長さん。そんなの、布同士が擦れる音で僕にだってわかってますよ。」
「そうね。ごめんなさい。それで、この方お名前は?」
「あ、六篇です。」
「六篇何さん?」
「六篇美空です。」
「そう。六篇さん。辺銀君は、生きるだけで大変なのよ。もう少し彼のために何かをしてあげなさい。その1つ目が衣服を正すことね。そんな恰好で町を出歩かないこと。じゃあ、辺銀君。また後で。」
「はい。」
私よりも一回り年上に見える彼女は、すたすたと去ってしまった。結局私に話しかけてきたのは2度だけ。
名前と性別だけ。
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