1,まどろっこしい

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「た、例えば?…例えば、将来どう生きるか。とか。」 「それは生き方ですよ。先生。生きるについて考える、なんて何を考えるかさえ難しいことなんです。それを先生が考えるなんて、」 「私だって考えたことぐらいあるぞ。何故生きているのか。とか。」 あぁ。何故生きている、なんてこの年になって口にすることじゃない。 恥ずかしい。 「答えは、出たんですか?」 「とりあえず、生きてみることにしたんだ。」 「かっこよく言いましたけど、答えは出なかったんですね。」 「まぁね。」 「まぁ、出たら出たで、人生達観しすぎていて嫌ですけど。」 辺銀は、サンドイッチの最後の一口を口に入れ、咀嚼する。 「で、爺先生に言われたわけですか。」 「そうなんだよ。言われたんだよ。」 「たまには外出しろ。て?」 「たまには外出しろ。と。」 そうなのだ。 生きるどうこうなんて、私には手に負えないことを話しているのではなく、 私たちは外出について話していたのである。
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