――第一章――

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二人共毎回さぼってるくせに……悪ガキか…… 麗は溜め息をつきながら、木刀を元あった場所に戻すと、道場を出ていったが、 原田と永倉は思わず顔を見合わせた。 「なんだよあれ……。思春期か」 「ぱっつあん、一人で構えとってもカッコ悪いな……。情けねえぞ」 永倉は一人、木刀を構えていた。 廊下を歩く麗は、桶に手拭いをつけた。 どいつもこいつも好き勝手ばっかり 手拭いを絞れば麗は床掃除をし始めた。 麗の身に纏う漆黒の胴着が埃で汚れていく。 全然掃除してない、みんな手をぬいて…… 「麗。床掃除は永倉君だろ」 「源さん……。近藤さん」 麗の目に立つ源さんと呼ばれた人物は、麗の手から手拭いをとると床を拭き始めた。 だが麗は近藤と呼ばれた人物を見たまま、動かなかった。 近藤は、ニッと笑いながら麗の前に屈んだ。 「おはよう麗。よく寝たか」 「はい、近藤さんもよく眠られましたか??」 「あぁ、今日もすこぶる調子がいい」 「そうですか、なら良かった」 笑う麗の頭を撫でる近藤は、ポンと麗の肩を叩いた。 「後で大切な話があるから私の部屋に来てくれ」 「分かりました」 廊下を歩いていく近藤の背中を、しばし麗は見つめていた。 源さんと呼ばれた人物、本名、井上源三郎は優しい人物なのだろう、目尻を下げながら笑っていた。 「麗は本当に近藤さんが好きだな」 「大好きです、だって周助さんや近藤さんは命の恩人ですから……」 「そうだな……懐かしい話だ……麗が此処に来て、もう何年かな…10年くらい経つかな…」 「多分…それくらいです……今が19ですから」 ……昔のことはよく覚えてない……周助さんや近藤さんが私を拾ってくれたってことしか、訊いてない……どこで拾われたとか、詳しく話も周助さん達は何も…… 麗は宙を仰ぎ見たが、井上から手拭いをとりあげた。 「私がしますから…源さんは朝餉を召し上がって下さい」 「頑固だな…じゃあ、お言葉に甘えようか…」 井上は笑いながら麗の頭を撫でると、廊下を歩いていった。 サワサワと心地よい風が吹き抜ければ高い位置で括る麗の髪の毛がユラユラと揺れながら、麗は床掃除を進めていたが、不意に手を休めた。 これから試衛館はどうなるんだろ……みんな好き勝手して…… 「恩を仇でかえす奴ばっかり」
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