――第一章――

6/10
前へ
/289ページ
次へ
多摩、試衛館と呼ばれる道場に麗は身を寄せていた。 試衛館は天然理心流の剣術を学ぶ町道場だが、北辰一刀流剣術、神道無念流剣術と言った一流道場のように金はない。 一流道場と張る土地を所有しているが、門下生30人が在籍する中、学費が一ヶ月一円と破格の値段で近藤は門下生に剣術を教えていた。 「近藤さんは人が良すぎる……」 ボソッと呟く麗は道場に駆けて行く門下生達を目で追った。 道場の入口はごった返し、だんだんと甲高い威勢のよい声が道場の中から聞こえる。 「麗、なにをしてるんですか、道場に行かないんですか」 「……さぼる奴ばっかり」 こいつも床掃除をさぼってる……なのに塾頭…師範代…免許皆伝 道場に歩いていく総司を見ながら麗は、目を細めた。 総司と呼ばれた人物は沖田総司。 十代で天然理心流、師範代、そして免許皆伝と言った、いわば剣の天性を持つ人物だ。 両親の死後、九歳で試衛館に内弟子として身を寄せていた。 細身な体で愛嬌のある八重歯をのぞかせる総司は、麗に対し、小首を傾げている。 「麗??」 「なんでもない」 「総司、麗はきっとあれなんだよ」 総司の横に立つ可愛らしい青年は、総司に耳打ちしたが、聞いた瞬間沖田は青年の頭を叩いた。 「いったああ!!叩くなよ!!」 「はしたないですよ、藤堂さん」 「はしたないとか本当だろ!!」 藤堂と呼ばれた人物は、藤堂平助。 こちらも原田、永倉と共に食客として試衛館に身を寄せていた。 こちらの出は立派な藩士の子だが、悪ガキのように、藤堂は口を尖らせた。 「麗あれなんだろ、月ものの「変態、さっさと道場に行けば」 馬鹿ばっかり……あいつもさぼり 麗は手拭いを投げつけようとしたが、すでに藤堂の姿はなかった。 麗と目があった総司は、気まずそうに目を逸らした。 「総司も早く道場に行けば」 「ええ……先に行ってますね」 沖田も藤堂の後を追うように、その場から離れていった。
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5150人が本棚に入れています
本棚に追加