――第一章――

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総司の姿を目で追う麗は、桶に手拭いをつけたが、水が余波を起こす様子を見つめていた。 ……昔はこんなんじゃなかったのに…… 【宗次郎はなにになりたいの??】 変に壁がある…… 手拭いを絞りながらポチャンと水滴が桶の中に落ちれば、麗は目を細めた。 「すみません……総司君はいますか?麗さん」 「お菊さん」 麗の元に寄ってきた女性は軽く頭を下げた。 お菊とは試衛館の近くに住む町娘だ。 ちょくちょく試衛館に足を運ばせては、門下生に差し入れを提供していた。 総司…あぁ… 麗は軽く頭を下げると、お菊を道場へ案内した。 道場の中は熱気がむんむんしている。 門下生が素振りから1対1の面打ちを繰り返す中、沖田は木刀を片手に、門下生の動きを歩きながら指導していた。 パシンと門下生の足を木刀で叩く沖田は、稽古になったら人が変わる。 「動きが遅い、手で木刀を振るな、体で振って下さい」 「はい、沖田先生。」 ゙体??ってなんだ……″ 門下生は沖田の発言に毎回、困っていた。 天性に恵まれた沖田は刀を持てば体が勝手に動くわけだが、門下生は普通の人物だ。 早く言えば沖田の言うことが、わけが分からなかった。 「分かってますか??……ううーん……。どうやったら伝わりますかね…違うんですよ」 総司は苛立ちながら、門下生の動きに首をヒネった。 分からないよね……そんな説明じゃあ……あっ 「総司!!お客さん!!」 「……麗」 麗の元に寄ってきた総司は、お菊に軽く頭を下げたが、お菊は総司と目を合わさず頭を下げた。 お菊さん…総司が… 麗は、お菊に軽く頭を下げた。 「私はこれで」 「えっ…麗…何故…「お菊さんは総司に用事があるの」 鈍感…鈍すぎる… 麗は総司の言葉を遮ると、また廊下の方へと歩いていった。 廊下に置く桶を手に持った麗は、裏の井戸に歩いていったが、井戸の近くで水を捨てた。 「麗!!総司が告白されてるぞ!!」 「早くこい!!見物に行くぞ!!」 バタバタ駆けて来たのは原田と藤堂だった。
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