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兄が死んだ。
離れていた分
何処かで覚悟していた分
悲しみはいつまで立っても
深くは沸き起こらない。
兄が死んだ。
家族全員が泣く中
一人でもしっかりしなければと
目は潤んでも満足には泣けなかった。
兄が灰になった。
焼かれる前に触った
髪の感触だけの
思い出しか残さずに。
生前の兄に会わなかった。
仕事が忙しい
そんな自己中心的な理由で。
兄の思い出がない。
他の兄弟の思い出は濃いのに
施設で兄は暮していたからだろう。
―――そして今日。
甘酒が飲みたくなって缶を見た。
何気ない日常の一コマの筈だった。
それなのに…
兄が何年か前に施設の職員と仲間で作った甘酒をくれた事を思い出した。
その時。
初めて…兄にはもう会えず、声を聞く事も何処までも澄みきった綺麗な瞳で見つめ恐る事も…無くなったんだと思った。
空の星がいつもより光って見える。
ああ。泣いているんだと気がついた。
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