紫煙

2/4
前へ
/4ページ
次へ
2000年も、もうあとわずかしか残されていなかった 街は来たるべき二十一世紀へ向けた、ドンチャン騒ぎが続いている 行き交う人たちは皆、寒そうにコートの襟をあわせ足早に通りすぎていく 彼らは俺と肩がぶつかっても、自分が帰るべき暖かい部屋しか見えていない 震える手でタバコに火をつける 少しはあったまるかな 渋谷の東急本店のディスプレイを眺め、その先にあるコンビニの横にはコインパーキングがあって、いつものように女子高生たちが、この寒空の下、健気になま脚を放り出してたむろしていた 足早に通りすぎようとするが、いつも彼女たちに見つかってしまう 彼女らの黄色い喚声は、灰色の街の景色とは、全くといっていいほどマッチしている この世に上品さなどという言葉はまるで初めから存在していないかのような、お下劣なこの街には 俺は、自分が寒さに震えるのを彼女らに見せたくなかったので、通りすがりの酔っ払ったサラリーマンと目をあわせる 案の定、君たちいくらだい?とサラリーマンは聞いてきた いつになったら、男たちは気づくのか 俺は毒づく女子高生を置いて、その先にある円山町に急いだ すでに30分は遅れたか 怒っているかもしれない 待ち合わせ場所への通り、細い路地の突き当たりに地蔵があって、毎日、夕方になると痩せこけた女が一晩中立っている 今日もやっぱり立っていた 彼女は売春婦なんだが、最近聞いた話では、どこぞの大企業のOLが何の酔狂か売春に手を出しているとのこと 初めの頃は、彼女に対する苦情が皆から届けられ、皆の声に俺も動かざるを得なくなり、彼女に会いに行ったのだが、一目見るなり、哀れといおうか、声をかけずに黙認することにして引き返した というのも、その哀れさは彼女を通して我が身の不遇を、否応なしにまざまざと見せつけられたからだった この寒空のなか、コートの下はペチコートのみでガタガタ震える身体を抱き締めようともせず、意志の力だけで寒さに堪え、客が通るのを待っていた 俺は横目で彼女の挨拶を返し、通り過ぎた 背中に彼女の鋭い視線を感じながら 他人の仕事の邪魔をするな きっと内心では俺のことを、苦々しく思っているのかもしれないな
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加