紫煙

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熱気のこもった、この狭い部屋の空気をそのままにして、隅にあるちっぽけなテレビをつけた テレビの出演者がひとりひとり子供の頃に描いた二十一世紀像を発表している まだ人は、空を飛べないよ クルマだって浮かんでなんかない ふぅ~と吐いたタバコの煙が、天井にぶつかって消えずに広がっていく 変わったことといえば、女がオトコを買う時代になったってことかな 今まで男どもに踏み躙られてきた女たちが、一斉に立ち上がったんだ 日が暮れて、窓の向こうは真っ暗になった 俺はタバコを消し、テレビから流れる歌番組を聴きながら重い腰を上げ、みゆきさんに投げ飛ばされた服をひとつひとつ拾っては身に着けた 窓の向こう、通りの突き当たりには、まだガリガリの彼女が声もかけられず、いや、そこに立っていることすら気づかれずに立っていることだろう そうだ、今夜はひとつ俺が彼女を買ってやろうか チェっ 雪が降ってきたぜ 早く帰らなきゃ 外に出ると、ちょうど目の前のホテルに入る二人を見送ったタクシーと出くわした 慌ててタクシーに乗り込みタバコに火をつける そろそろ大学のレポートのことも考えないといけないかな 雪はすぐに雨に変わり、車の窓ガラスを激しく叩いた 翌朝の新聞に、小さく『神泉の空きアパートの一室で女性の他殺体が見つかる』という記事が載った その記事の女性が、痩せこけたガリガリさんのことだと知ったのは、それから一週間後のことだった
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