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借りたものは、返せ。
安堂(あんどう)家に伝わる家訓を初めて聞いたのは、伊知郎(いちろう)がクラスメイトに集団で暴行を受けたその日の夕方であった。
家に辿り着き泣きじゃくって玄関を開けると、伊知郎の泣き声に駆けつけた父親が仁王立ちでそう言い放った。
身体中傷だらけで服をボロボロにしながら泣いてる息子を心配するという事など一切なく、泣き続ける息子を怒鳴りつけた。
ただでさえ身長の高い父親がその日はまさに大きな壁に感じ、伊知郎は怖さのあまり泣くのを我慢した。
身体中の傷は呼吸する度に痛みが走る程で、堪えきれずに涙が溢れだしそうであったがそれ以上に父親が怖く、これ以上泣けば家の中に入る事すらままならないだろう。
泣き止んだ伊知郎に父親は玄関にあった木製のバットを手渡した。
家訓に従おうとすると、それが手渡された意味がどういうものか。
伊知郎は首を横に振り拒否したが、父親は木製バットを伊知郎にしっかりと握りしめさせた。
閉め出す様に伊知郎の肩を押す父親。
なすがままにされる伊知郎はそれでも抗議の声をあげようとしたが、目の前で玄関の戸は閉められ聞く耳を持ってはくれないのだと理解した。
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