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一番初めのページの一番上の段に、神戸市灘区の本宅の番号が、その下に御影の別宅の番号が書いてあった。その下から次のページ、その次のページも空白が続いている。最後のページに幼なじみの女の子の住所と電話番号。掛けることはなかった。
俺はまず、御影の別宅に電話した。右手に十円玉をつまんでいつでも追加できるように。
コール音が虚しく響く。
いないらしい。わかりきっているはずなのに、掛けてしまう。胸を撫で下ろしたいからか、幾分楽になるんだ。
次は本宅だ。胸が高鳴り、手がぶるぶる震えた。受話器を取り落とすくらい震えだすと、一度戻して深呼吸する。狭い電話BOXは、俺の体温と電灯の温かさで霜ができ始めていた。
気を取り直す余裕も与えずに勢いよく、暗記してしまった番号を確認しながらプッシュする。
鳴り響くコール音。
いつも決まって、三回目のコールでそれは取り上げられた。
「……でございます」
そして必ずなんと名乗っているのかは、俺には聞こえない。
電話は家政婦か若衆がとった。今日は家政婦だった。
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