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「で、でええい止めろ!」
全力をもってして、
俺の右手を救い出す。
といっても、
ただ手を引いただけだが。
「じゅるぶっ。あっ!
……んもう!!
せっかちなんだから!!
……お馬鹿さん♪」
何がせっかちで何がお馬鹿さん
なのかは皆目見当もつかない。
しかし少なくともいきなり手を
べろべろ舐めたくる奴の方が
十分お馬鹿さんじゃないかと
思うんですが。いかがですか。
「そんな君はフルボッコだ!」
「とにかく一回黙れ!」
「そんな君はふる○っきだ?」
「なんて安直な下ネタ!!
一瞬、中年のオッサンが
お前の背後に見えたような
気がしたわ!!」
思わずスタンドが幻覚で
見えてしまうほどに
精神的に追い詰められた俺を
誰か哀れんでください。
ぱちん。
唐突に、桃が柏手を一発、
景気よく両手で鳴らした。
これは『終了』の合図。
「……はい。ここまで。
…………して、先程の
『吸がぁぬうるばっ!』は
言語としては不成立だ。
ふむ……。ということは、
再び私がレイの素敵な
指を舐めると…………」
んれろ、と再び舌を出した桃。
無論だが、
俺は慌てて手を逃がした。
「再ぶ必要なしッ!
というかまずだな、
手なんか舐めるんじゃない!
ばっちいだろ!?」
「『ふたたぶ』? ……ああ、
再びする、という意味だな?
今、作った造語か何かか?
それに、『ばっちい』という
特殊な表現は『汚い』という
意味を持つ方言だね?
ふむふむなるほど…………。
これまたどうして面白い。
ばっちい……但馬方言か?」
ぶつぶつと呟きながら、器用に
縄跳びの束縛から抜け出す桃。
……自分で抜けれんのかい。
一悶着あってからの
紹介になってしまって、
非常に申し訳ない。彼女は、
俺の幼馴染の安土 桃だ。
彼女の紹介だが、あえて
一言で言わせてもらう。
特殊な人間である、だ。
何が特殊って、まぁ見た通り。
今回、縄で縛ってくれって
頼んできたのも桃だし、それに
似たような下らないことを
『実験』と称し日夜繰り返して
いるのも彼女自身なのだ。
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