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冬至。丑の刻。二人の男女は逃走を謀った。
藩の当主の一人娘である影御津羽耶(かげみつはや)と、当主の家臣である眞田利明(さなだとしあき)は、二人だけで生き抜く覚悟の上だった。
仄かに月の光が雲間から漏れ、僅かに照らされる街道。
それでもほとんどが暗闇を占める中、明かりも持たずに人目を忍ぶ二人は、内心、無事に城を抜けられた事に安堵する。
屋敷を抜けるに当たって、艶やかな衣装は以っての外だったため、服装は下町に馴染むように選んできたつもりだった。
地味で少しでも徒労が滲み出るようなものをと、頭を捻ったところだが、まだ不安は隠せない。
急を要した逃亡は、必要不可欠であろう食料さえ、準備する暇を与えてはくれなかったからだ。
それも今夜を逃せば永久に、機会を失ってしまう事を考慮しての事だった。
(確率は五分。いや、もしくはもっとーー……)
眞田は冷静に状況を分析する。持ち物は刀一つ。
何処まで行けばいいのかも分からないこの状態では、手持ち無沙汰であるのも否めない。
凍えるような寒さにも拘わらず汗が額から伝う。
やはり時期尚早だったのではないだろうか。
眞田に不安が霞めた。
流されそうになる意志を奮いたたせ、眞田は言い聞かせる。
(今夜を逃せば、二度と会えなくなってしまう)
野犬の遠吠えが何処からともなく聞こえてきた。
野犬にとっても厳しい冬の時期。
その遠吠えは哀しい調べを奏でているようにも感じた。
餌を確保できずに、愛する者に先立たれた。そんな獣の嘆きにも聞こえる……。
ふと眞田の背筋に悪寒が走った。
こんな時に何を考えているのだ、と嫌な連想を打ち消すように頭を振った。
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