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「そこのお兄ちゃん、ちょっとこっちに来なそい」
とある日曜日。
昼下がり。
そこそこ人がいる商店街を早足で歩く藤原蒼馬に声をかけてきたのは怪しげなじい様だった。
なにがどう怪しいかといえば
砂漠化が進んだ頭皮
マトリックスっぽいサングラス
旧日本兵らしき軍服
天狗が履いてそうな高下駄
見た目がすでにアレだった。
仁王立ちで、おまけにマントとか着けている。
しかもこのじい様、『来なそい』って言ったし。
「いや、人待たせてるんで」
これは事実だった。
日曜日だというのにこの藤原蒼馬という男、会社の同僚と後輩に会う約束があった。遅れそうな理由はパチスロで時間潰してたら予想外に好調だったため止め時が遅かったからである。
「なっちょらん!」
「は?」
突然妙なお叱りを受け、蒼馬は困惑した。
「もっと年寄りを大事にせんか」
じい様の言うことはもっともであったが、それは状況にもよるものである。
そしてこの状況で使うのは完全に間違っている。
「他の人に頼んでください」
そう伝えて蒼馬はじい様から逃げた。
なんだか追いかけられた。
「ちょっ、なんでついて来るんですか?」
「逃がしはせん! この命の灯が尽きようとも」
縁起でもないセリフと共に蒼馬を追撃するご老体は、ビックリするほど元気だった。
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