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「いや、すまん。遅れた」
待ち合わせの喫茶店に二人の姿は既にあった。
オレンジジュースをストローで掻き混ぜている女性が蒼馬の同僚まりやん。
ホットコーヒーのガムシロップを最後の一滴まで抽出しようと頑張ってる男性が同じく後輩のペッパーズだ。
「藤原ぁ、遅い! ていうかそのおじいさん誰?」
まりやんの指摘に蒼馬は即答する。
「知らん。なんか取り憑かれた」
「わしは貧乏神じゃないぞい!」
怪しいじい様はご立腹のようだ。
「とりあえず蒼馬さんもなんか頼んだらどうです?」
「そうだね」
ペッパーズに促され、蒼馬は彼の隣に座った。まりやんが蒼馬にメニューを渡す。
「じーさん?」
「なんじゃら?」
蒼馬の問い掛けに『対面の』じい様が返事した。
「なんでナチュラルに着席してんの?」
「最近年のせいか足腰が弱っての」
「まぁいいじゃないですか」
なぜかじい様を援護するペッパーズ。彼は基本的に善人だ。
「ペパはお人よしよね~。ま、邪険に扱う必要もないと思うけど」
呆れた様子も見せつつ、まりやんもじい様を邪魔者扱いはしなかった。
「ほれみてみ。お主以外は年寄りを大事にしよる」
したり顔のじい様にそう言われた蒼馬だったが、彼もたいして変わらない。
二十代の若者が老人を本気で撒こうと思えば、それは簡単にできた。
ただ、理由はわからないが自分を追ってくる謎の老人に多少なりとも手心を加えたのだ。
「まぁいいか」
結局、そこにいる全員が謎の老人の相席を容認していた。
通りがかったウエイトレスを蒼馬が呼び止める。
「アイスカプチーノを一つ」
「わしも」
じい様も便乗していた。
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