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王子は天井を見上げていた。寝台は異様に固く、布団は薄っぺらい。花の香りらしきものは一切なく、あるのは土くれの臭い。
「なんだ、ここは…」
身を起こして辺りを見回すと、そこは木でできた小さな家だった。窓の隣の扉は外に通じているようだ。
こんな外に近いところに寝台を置くとは。
部屋の奥には台所の様なところも見えるし、いたるところに物が溢れている。小さな家だ。狭い壁に自分の服がかけられているのに気づいて、自身に目を落とす。シャツ一枚の体のあちこちに、手当ての跡があった。
「お体の方はいかがですか」
再び視線をあげると、一人の男が扉を開けて入ってくる。扉の向こうは、やはり外だ。
「…特に、問題はない」
男は頷いて、膝をつき臣下の礼をとった。
「お召し物の紋から、王子殿下とお見受けします。私はここで農夫をしている者です。昨日、川を流れてきた殿下を見つけて、践悦ながら私の家に運ばせていただきました」
「そうか、世話をかけた」
「いえ…」
農夫は頭を下げたまま続ける。
「本来ならば即座に王城にご連絡をし、お迎えを頼むべきだったのですが…」
躊躇するそぶりが見えて、王子は眉を潜めた。
「なんだ」
「その…、申し上げます」
農夫は顔を上げ、王子と視線を合わせる。まだまだ働き盛りの、それほど年をとっていない容貌。
「昨日、王家に反旗を翻す者があり、陛下は…お隠れに、なりました」
陽が翳る。
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