アンリの日記

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ある日のこと。 此方へ越してきてから、暇を見付けて少しずつ進めている書斎の整理を行っていると、メイドのクリスがやって来た。 「整理でしたらお手伝いいたしますが?」 「別に構わないのだが、まぁ断っても無駄なのだろう?」 「えぇ、よくお分かりで」 「じゃあ其所の大量にあるアンリの日記悵を他所へ移すから手伝ってくれ。こういう時はアルトが居れば楽なのだがな」 「カナさまいらっしゃいますかぁ?」 噂をすればなんとやら、件の台風の芽がやって来た。 「アルト、丁度お前の話をしていたところだ。で、私に何か用か?」 「ニッポンのマナという方から荷物が届いてるデス」 そう言ってアルトは私の前に、大きさA5程で厚みは5センチ程の包みを差し出してきた。 「伯父からか。何か送ってくるような連絡は受けていないが…何だろうな」 「何が入ってるデスか?」 アルトは目をキラキラ輝かせて荷物を見詰めている。 「興味津々だな」 「興味津々デス」 「取り敢えず開けるとするか」 私は小指の爪をナイフ代わりにして包み紙を切り、中に収められていたモノを取り出した。 「なるほど、そういうことか」 「ふむふむ…『でぃありぃ』デスね。なるほどデス」 「『Diary』はダイアリー、日記帳です」 クリスに突っ込まれ、アルトは窓の外を眺めて-ヒューヒュー-と鳴らない口笛を吹いている。 「恥ずべきことではないさ。お前がバカであることは衆知のことだ」 「バカではないのデス。無知なだけなのデス」 「無知なんて何処で覚えたのか知りませんが、貴女は教えても右から左でしょうが…」 私に向かい自慢気に無い胸を張るアルトを、クリスが呆れた顔で見詰めて呟く。 「兎も角だ、日本から送られてきたということは、此れが日本に在ったということ。そして、この日記の『name』のところ」 「ヘンリーさんデスね」 「ヘンリーって誰ですか…そんなことを言うから、おバカだと言われるのです。前に教えたでしょう?『Henri』と書いて『アンリ』と読むと」 「そう。つまりはアンリが日本でつけていた日記帳ということだ」 「つまりアンリさまの日記なのデスね?」 「お嬢様が言ったままじゃないですか…」 クリスは若干肩を落とし、終始呆れた顔でおバカの部下を見ていた。全くもって大変だなダメイズ(ダメ+(メイド×n))の世話は。
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