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思わず笑みがこぼれる
視線を携帯から上げると
彼がこちらを見ていて
慌てて俯く
多分、さっき笑ったのも
見られちゃったよね…
恥ずかしい…
「名前…」
そこでお互い
名乗っていないことに
気づいた
「時方灯夜で、す」
「トモヤ?どんな字?」
人に下の名前を呼ばれたの
久々だ…
文字を聞いた彼は
感心したように
画面に映されているであろう
僕の名前を眺めていた
「いいね、
なんか雰囲気ある」
財布の中から
1枚の名刺を出すその仕草は
とても慣れたもので
そういう関係の仕事なのかなと
軽く想像してしまう
「緊急時の名刺が役立った」
渡された名刺には
勤め先の会社名と
さっき送られてきたアドレスと
『的伎憂』の文字
「マトギ……」
…ユウ?
「うれい。
暗い名前だろ?」
それに、誰も読めない
と呟く彼の表情には
どこか諦めにも似た感情が浮かんでいる
でも僕は、
似合ってると思った
暗いイメージではなく
彼が『憂』という名前なら
『憂い』の文字そのものが
彼のように綺麗なものに思えた
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