第一章 幼い日のこと

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第二次世界大戦も まだ始まらない 平和ででも 貧しかった 日々の暮らし 房江は 幼い弟妹を三人持つ 漆塗り職人の両親の元で育った 房江の母 八重子は気丈で 情の深い人で 広くはない家に 何人もの親戚まで住まわせて面倒を見ていた 誠実な人柄の八重子夫妻は信頼も厚く 仕事が途切れることはなかったが なにせ 大家族を養うには 働いても働いても 暮らしは貧しかった 房江は毎日 弟妹の世話に追われ 学校へ行くことも許されなかった 毎日 墨田公園の小さな橋の上で一番下の妹を背負い 弟の手を引いて そこから見える 学校の窓を眺めていた
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