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家族
周りを緑に囲まれた、小さい山の一角に位置する三階建ての白い小さな建物。
みどり児童養護施設と記され、初夏の花々に彩られた門をくぐり、駐車場に一台の車が静かに停まる。
高級車レクサスから出てきたのは若い夫婦。
おそらく二十代であろう彼らは、後部席から大きい袋をいくつも取り出し、それらを持ち施設の正面玄関へと向かう。
「近藤さん!」
夫妻が玄関まで半ばまでの距離を歩いた時、そこから一人の女が彼らの名を呼び、飛び出してきた。
初老に差しかかった彼女は、年齢を感じさせる速度で夫妻に走り寄り、弾んだ息を整えることもせずに、彼らへ笑顔で話しかける。
「お待ちしていました!いつもありがとうございます」
「気にしないで下さい院長先生。僕達が好きでしていることですから」
院長の言葉に男、近藤輝(こんどう あきら)は笑顔で言う。
「そうですよ。先生。私達は子供が好きなだけですから」
輝に続き言ったのは、彼の妻である雫(しずく)だ。
二人の笑顔に打算的なものは一切なく、彼らの言葉に裏がないことを証明していた。
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