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名刺を差し出して、
「それじゃ、またね」
の一言を残し、彼はあっという間に雑踏に姿を消した。
まるで私に何も言わせないかのように。
私は新宿駅から、借りたばかりの我が家へ帰る道中…名刺を見つめては彼の事ばかり考えていた。
クラブ優…?
店の名前…だよね?
会社ではないはず。
と思ったのは、営業マンである父の名刺と余りに違ったからだ。
普通の白い紙に素っ気なく、社名と役職とフルネームが書かれている父のそれとは余りに違いすぎる。
琉聖がくれた名刺は白い、パールが入ったような光沢のある紙に、なぜかローマ字表記でRYUSEI、その下に琉聖とあった。
…これが、もしかして噂の夜のお仕事の人の名刺?
でもクラブって?
田舎育ちの美羽にとって、クラブと言う物がよくわからなかった。
テレビで見るクラブとは、ハデな男女が踊るイメージで。
怖い物見たさ半分。
あとの半分は、都会に来たんだから、都会らしい事をしてみよう、という冒険心で、その店を訪れたのが、出会いから三日後だった。
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