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今宵も月が美しい。
月は彼女と私を引き合わせた十六夜の月夜。
その月を見上げながら、他の姫とこの時を過ごしている。
桜の舞散る春の夜。
この美しい景色が似合うのは彼女しかいないのだろうな。
今宵も、長居してしまったな。
早く姫君のところに戻らないと起きている顔が拝見できない。
「それでは、今宵はこれで失礼するよ。」
橘の花の模様の入った衣を羽織り、今宵、共に過ごした姫君のそばから立ち去る。
しかし、姫君は名残惜しく、私に優しく寄り添って、瞳には涙を浮かべていた。
「お待ち下さい。もう少し、私の元にいてくれませんか?少将様。」
そんな姫君の額に口を付け、囁く。
「そうだな。」
姫君から顔を離し、姫君の顎に手を添える。
姫君の瞳をしっかり捕らえ
「だけど、それはできないよ。私を待っている者がいてね。戻らねばならぬのだよ。」
姫君から離れて、衣を頭からかぶる。
「・・・はい。」
そして、私は今宵過ごした姫君の屋敷を去る。
彼が去った後、姫君はその美しい顔に妖しい笑みを浮かべていた。
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