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私は答えた、答えてしまった。
私の居場所を奪い、罪悪感の片鱗も見せないあの男の名前を。
「かしこまりました、五分ほどお待ち下さい。」
と言うと携帯電話を取り出し何かを話始める。
A班、B班と言うような言葉も聞こえる。
手持ちぶさにタバコに火をつける。
この世の中は美しい。
これが末期の目と言う奴か。
芥川龍之介の気持ちがまた分かると言うものだ。
タバコが吸い終わるのを待って彼女は口を開いた。
「査定の結果、無料で執りわせていただけます。」
明るい笑顔が見える。
「そうですか。」
「下でスタッフも待機しております。お好きなタイミングで。」
「その前に、奴は本当に死んだのか確認って出来ませんか?」
「おすすめはしませんよ。」
今までに無い冷たい声
「心残りになるのは嫌ですから。」
しょうがないな、と携帯の画面をコッチに向ける。
グロテスクに解体された奴の身体が画面を埋める。
胃の底から酸っぱい物が上がってくるのを感じずにはいられない。
「落ちるの怖くなりました?」
「そりゃあ、そうです。」
「そうですか、でも落ちてもらわないと困ります。貴方の臓器も商品なんですから。」
そう言った、彼女の顔は仮面を被ったような恐ろしいまでに冷たい笑顔。
その様子に思わず一歩退く。
「逃げるのですか?先刻の死は貴方が命じたのですよ。退路なぞあるとお思いですか?」
冷たい声はなお続き、仮面は恐ろしさを増す。
瞬間、彼女の笑顔はパンッと崩れる
「つーか、とっとと死ね。なんだったらそのど頭ぶち抜いてやってもいいわよ。」
仮面をつけていてもらった方が幾分マシだったようだ。
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