みちづれなるままに

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そりゃあ恐怖なんて言う話じゃなかった。 一瞬の沈黙さえ万年に思えるほど… それを打ち消すように私は頭を床に擦り付ける。 土下座…最後にやったのは小学生くらいの時だったか…。 「もう、今までの生活には戻れませんよ?」 彼女は、何事も無かったかの様に笑顔を作る。 「でも、生きたい。」 それしか言葉は出てこない。 「はっきり申しまして、自殺するか死刑になるかの選択ですよ?」 「でも、生きたい。」 「ふーん。結果的に臓器が貰えれば私はそれもいいんですけどねぇ、もしくは臓器分のお金でもいいですが。」 冷たい声は呆れた様に呟く。 「お金は…。」 「ないんでしょ?やっぱり死んで頂くしか…ね?」 フィクションでしか聞いた事しかない鉄の音がする。 「ちょっ、ちょっと待って!」 「なにか?」 この状況をどうすれば潜り抜けられるか思考を巡らせる。 「何にも無いんなら、さようなら名も知らないお客様。」 「け、契約をしようじゃないか!」 このとっさの閃きは、私の人生で最悪のアイデアだった。 「私の全身、臓器に至るまで貴社への担保と言うのはどうだ!」 「これからの貴方に金を作る方法があるとでも?」 彼女は嘲笑すると、ついに取り出した黒光りする拳銃を構える。 「じゃあ、あれだ!倉庫だ!」 「倉庫?」 「臓器だって血液型とかあるし需要が無ければ売れないだろ?新鮮どころか最早生きている臓器を保管する倉庫、必要とあらばいつでも売ってもらっていい。」 「維持費はどうするつもりですか?」 その質問に言葉に詰まる。 暫しの沈黙。 「まあ、いいでしょうその提案受けますわ。維持費の方はわが社でタダ働きと言うことで。…そうですね倉庫兼奴隷と言う所でしょうか。」 ふっと力が抜ける。 「戻るからついてこいな。」 顔を上げた頃には彼女の仮面は剥げ落ちていた。 かくして、この奇妙な会社に雇われ…いや備蓄される事になったのだが。 それはまた、次の機会に。
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