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この時桜井家は同じく信濃伊那郡を治める高遠家に服属していた。
かつては独立していた両家だったが頼長の父である先代の時、諏訪一門の高遠の血筋の前に屈服する形で臣下の礼をとった。
病弱気弱な父の後を継いだ頼長は周りの期待を裏切らぬ才知を発揮し、主君である高遠頼継からも信頼を集めていた。
「これがワシらにとって良い波となることを願うとするかの」
依然として口元を手で覆い隠しながら話す頼長
「この窮地を我らの都合の良い方に変えられますかな?」
「古今より、名将とは善手を繰り出す者のことをいう。しかし名将を超ゆる将とは、敵の善手ですら自らの策の一手とする。ほれこんな手はどうじゃ?名付けて伏面の計
なんつっての」
ニカッと笑いながら一手指す頼長
「むむ、先ほどまで優勢だったはずがこれは……ハハハハ!これはまんまとハメられましたかの!!」
あまりに気持ちよくやられ清々しい気分にもなった信実は豪快に笑って見せた。
「なんのなんのこれしき 。
さて、そろそろ時分かの」
頼長がふと館から外に目をやると丁度使者を連れた小性が姿を見せた
「頼長様、主より至急お会いしたいとの言付けを賜って参りました。」
使者の丁寧な言葉を聞くと頼長はふらふらっと立ち上がり館を後にした。
「では、行ってくるかの。留守は頼んだぞ。」
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