酉ノ刻

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夏の夜風が、心地よい。 穏やかに頬を撫でた風に、少年は目を細めた。まもなく夜にかわろうとする黄昏時。祭りは始まったばかりだというのに、周囲は人がごった返している。 参道の両脇には屋台が立ち並び、賑やかな喧騒に混じって笛やら太鼓やらの音が聞こえてきた。少年はこういった人混みはあまり好きではない。でも今夜は、いつもと違っていた。 隣を歩く少女も、少し目を細めながら、手を組んで伸びをした。少年はこの少女に想いを寄せている。ポケットに無造作に突っ込んだ手は、言いようのない高揚感のせいだろうか、無性に汗ばんでいた。 そもそも少年と少女はそれぞれ別の友達と祭りにきた。男どおし、女どおしで回るつもりだったが、いつの間にか合流し、いつの間にか少年と少女二人になっていた。クラスでは別に席が近いわけでもない。仲も特別良いわけではない。それでも少年は密かに想いを寄せていた。もっともまだ小学六年生。恋愛などしたこともないし、やり方とかも、わからない。 「まったく、あいつらどこ行ったんだ」 少年は気紛れに言った。 少女は、怪訝そうに少年の顔を見ていたが、そうだね、と短く言った。 「でも、ただ探してるだけじゃつまんないし、いろいろ遊びながら探そうよ」 少女は極めて自然に言った。少女にとっては自然であっても、少年にとっては少女の一言一言に心が揺り動かされる。
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