酉ノ刻

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少年と少女はかき氷とソースせんべいを買った。 金を払うとき、少女に奢ってやろうか、と言おうか迷ったが、少女はさっさと自分の料金を払ってしまっていた。 かき氷を片手に参道をしばらく歩いた。少女が次に興味を示したのは、型抜きだった。少年は興味は無かったが、せっかくなのでやってみた。 少女は何事も一生懸命やった。型抜きをしているときの顔も真剣そのものであった。集中する事が苦手な少年は少女の顔をちら、と盗み見て、 (ああ、やっぱり俺は、この子の事が好きなんだ) と悟った。何で、と言われると難しいが、少女のマイペースなところも、真面目なところも、時折見せる笑顔も、自分の中で特別だった。と同時に重症だな、とも思った。 「できた」 少女の得意げな顔が目の前にあった。見事な型抜きを片手に見せびらかしている。 「うわ、へたくそ」 少女は少年の手元をみて笑った。少年はほっとけ、とあしらいながらも自然と笑みがこぼれた。 いつの間にか友達を探す、という当初の目的を忘れ、少年と少女は遊びにふけった。少年も緊張がほぐれ、純粋に楽しむことができた。 辺りはすっかり暗くなり、広場で踊りが始まった。少年と少女は、参道を登りきって、社殿の前にたどり着いた。
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