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だが、少年はさすがに戸惑った。このような事は初めてだったし、今までのささやかな幸福の余韻に浸っていたい、という気持ちもあった。だが、一度決めた以上、やはり伝えてみたかった。だが、怖い。少女は今なにを考えているのだろう、どんな表情をしているのだろう、と考えた。
「な、なぁ」
少年は中途半端な決意のまま、口火を切ってしまった。
そして少女の視線がこちらへ向けられたことを感じた。少年はほとんど考えられなくなった。
「俺はさ、お前がいなきゃ、困る」
少年の本音だった。どうやら気持ちが中途半端だと、言うことも中途半端になるようだ。というより、少年はほとんど無意識にいった。理性ではなく、人間の本能を感じ取った少年の感性が言葉を発したのだろう。
沈黙が流れた。少年はようやく理性が戻った。言ってしまった、と思うと妙に落ち着けた。俺は言ったからな、という開き直った気分になった。
「わたしも、困る」
暗闇から浮き出た少女の言葉だった。その声は、少年と同じような匂いがした。もしかしたら、少女も自問自答して、感性から発した言葉なのかもしれない。
少年は、何と返したらいいかわからなくなった。そんな間に耐えきれなくなって、少年は少女の手を取り、自分の体を寄せて吸着させた。
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