弐__心情の変化

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『もぉ~、気が利かないわねぇ~。そうだっ!まだ近くにいるんでしょ!?電話しなさいよ、電話!ご飯食べていってもらいなさいよ!』 『無理だよ、無理!あいつには嫁さんもちっちゃな子供もいるんだからさ!』 『いいじゃなぁい、ちょっとくらい!ダメ元でさ、電話してみなさいよ!』 『はぁ~~~。』 俺は溜め息を吐くとその場から逃げるように仏壇へと向かった。たった数歩離れただけだがそこは数十mも離れた場所のように感じられた。 『出たわね、無視!めんどくさくなるといつもそうなんだから!はぁ~っ、哲也も一樹君くらいいい子だったら良かったのにね~。そしたら今頃かわいい奥さんの一人や二人居たのにね~。』 これは挑発だ。この挑発にのってしまったらお袋の思う壺だ。 線香に火を灯すと無心で手を合わせる。独特の匂いのする煙越しにぶすっとした表情の親父の遺影が見えた。 親父は俺が高校二年の時に死んだ。親父は俺にさらに輪をかけたような人で、流石の俺でも頭の上がらないような時が多々あった。まさに傍若無人、世界は自分を中心に回っていると思っているような人だった。 そんな人間がある日突然逝ってしまった。殺しても死なないと思っていた人が動かなくなってしまった。その出来事はまだ十七の俺には余りに衝撃が強く、それからしばらくかなり荒れたのを覚えている。 その後は母に育ててもらって今に至るのだが、まぁ、大分苦労はかけた気がする・・・。
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