壱__思い出の場所

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いや、働こうとしなかった訳ではない。 やりたい仕事が見つからないまま大学を卒業してしまった時、さすがにお袋に悪いと思い居酒屋でアルバイトを始めたことがある。 最初は上手いことやっていたのだが、二週間くらい経ったときに事件が起きた。 『ちょっと、やめて下さい!』 『いいじゃねぇか、ねぇちゃん。ちょっとだけ、ちょっとだけだよ。』 仕事帰りらしいサラリーマンのおっさんが若い女性客に抱きつこうとしていた。居酒屋ではよくあることらしいが、気づいたら拳が飛んでいた。 運良く警察沙汰にはならなかったが、もちろんクビだった。 昔からそうだった。まっすぐ一本筋の通った性格、曲がったことが大嫌い。人の下で働くということが根本的に向いていないのだろう。 幸いなことに母は何も言わなかった。親父譲りのこの性格を十分理解してくれていた。さすが親父と結婚しただけはある、と言っておこうか。 だがかなり迷惑をかけていたと今では思う。いつか恩返しがしたい。いや、しなければならない! ・・・とは思ってはいるが、まず仕事を見つけなければな・・・。 『まもなく、渋谷~。渋谷~。』 そうこう考えている内に目的地に着いたようだ。
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