壱__思い出の場所

5/9
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
『やっぱりここだろ!』 そう言うと一樹は¨Destiny's¨と描かれた看板をくぐって中へ入っていった。 そこでは騒々しい音が鳴り響き、皆無言で画面に向かいながらボタンを連打していた。 『この歳になってゲーセンてのもあれだな・・・。』 哲也は顔の横をポリポリ掻いた。 『おっ!まだあるぜ!?熱番Ⅱ!!』 どうやら一樹は全く恥ずかしく無いらしい。子供みたいにはしゃいでいる。 熱番Ⅱとは熱血番長Ⅱの略である。高校生の時よく一樹と学校をサボり、熱血番長Ⅱの技を磨いていた。特に哲治というキャラクターが好きでよく使っていた。自分と同じ哲という字が入っていたからなのだが・・・。 『テツこのキャラクター好きだったよな。獅子威し!!』 一樹は両手で拳を作り、小さい万歳のような格好をしている。 『お前まだ覚えてんのかよ。』 『ああ、当たり前だろ?あんなの忘れる訳ないだろ。』 獅子威しとは哲治の必殺技だ。いわゆるネコパンチのライオンバージョンといったら分かると思う。 問題なのは俺が実際にケンカで使おうとしたことだ。もちろん大した威力がある訳でもなく、必殺技を出した瞬間周りの空気が凍りついたのは言うまでもない。 『あの時は使えると思ったんだよ。』 『あぁ、テツの顔マジだったよ。マジで笑えた!よしっ!じゃあちょっとやってみるかな。』 一樹は少し笑った後、腕をまくると椅子に座った。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!