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一樹の姿はすでに見えなくなっていた。だがあいつがどこに行ったのかは大体見当はついていた。
『おっ、まだ開いてる!』
窓を勢いよく開けると、サッシを跨いで中へと入った。
『全然変わってねぇなぁ。』
辺りを見回すと思わず口に出してしまった。この鍵の壊れた窓も、あそこの壁の落書きも、ヤニですすけた天井も、全てがあの時のままだった。
それはまるで六年前にタイムスリップしてしまったかのような錯覚を覚えてしまう程だった。
『てことは、やっぱりあそこだな。』
我が母校、龍神高校で思い出の場所といったらあそこ以外にはない。俺は屋上へと続く階段を駆け上がっていった。
やはり一樹はそこにいた。足元を見ながらぼーっと立ち尽くしている。
『お前どうしたんだよ!昔はこんなことしなかっただろ!?』
俺も一樹も法に触れることや、人の迷惑になるようなことはしてこなかった。
・・・いや、ほとんどしなかった。
もちろん補導を恐れたり、人の目を気にしていた訳ではなかった。ただ俺達の思う正しいことが結果的にそれらに似通っていただけなのだ。
『やっぱりさ、テツに会ったらどうしてもここに来たかったんだよ。』
一樹は未だ、下を向いたまま答えた。
『確かに分からなくも無いけどさ、お前には家族がいるじゃないか!もしこんなんで捕まったら笑えねえぜ!?』
冗談のつもりだった。
『…………お前、変わって無いな。』
『何言ってんだ!お前だってそうだろ!?』
『変わらなきゃやってらんねぇんだよ!!子供も大きくなってどんどんどんどん金がかかってくるし、今不況で仕事がねぇんだ!!ムカついたからっておいそれとお前みたいに辞めるわけにはいかねぇんだよ!!』
一樹は火がついたように俺を睨みつけている。
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