47人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
あたしが大人になった頃銀座あたりから、パンパンっていう立ちんぼで稼いだ異人さん御用達の娼婦で成功した女達がクラブってのを立ち上げて成功していった。
客に体を売らない、酒の接待だけの店なんてのは画期的だったよ。
もっとも売春が非合法になっちまったからどの店も隠すのに必死だったよ。ある店はキャバレーになり、ある店はストリップ小屋になり、ある店はクラブやスナックになっていった。
あの頃はみんなが貧乏でさ、でも、今みたいな辛気くささはなくて、みんな明日への希望ってのを持ってた。
成金も沢山でたしね。
お嬢ちゃん焦りなさんなって、判ってるよ、聞きたいのは清田春臣との出会いだろ。そしてあんたの父親との関係。
順を追って話してやるからちょっと待ってなよ。
どうせあたしらにはもう時間てもんは無いんだから、そうだろ?
そん時あたしはキャバレーを取り仕切ってた。キャバレーってわかるかい? 店の造りはいまの演芸場みたいな感じなんだけど、お客のいるフロアはキャバクラと一緒だね。テーブルごとにお姉ちゃんがいて酒があって。
ステージは華やかだったよ。歌手も出たし漫談家も出たし、ストリッパーを連れてきたりした。
あたしも三味と日本舞踊が少しは出来たから、そういうのをしたりね。
そこで清田春臣と出会った。春臣は破天荒な野郎だから客席に金をばらまいて、好きなだけくれてやるから帰れとか言い出したりーこっちは客単価が命だから帰られちゃ困るんだよー、席に着かせた姉ちゃんに札束を渡してその席でストリップしてみろって言ったりね。
もう、やりたい放題。あとで聞いた話では、あたしを困らせたくてやったんだとかなんとかほざいてたけど、それはまぁイヤな客だったよ。
機嫌を損ねてはあたしを呼び出して、外に連れ出してその度に関係を強要してきてね。
結局あたしを我がものにしたいがために店をめちゃめちゃにしにくるんだよ。
10円ハゲがいくつも出来たよ。店の経営は傾いた。結局潰しちまったけど必死でやったよ。
手元に残ったわずかな金で今のタバコ屋の土地を買ったのさ。
あたしはもう25過ぎてたからね、体売って生きるのは限界が来てた。足を洗ったつもりだった。
春臣がめざとくあたしを見つけやがった。情婦になれっつうんだよ。あたしより六つも下なのに生意気な野郎だったよ。まだ画家としては売れてなかった。たしか闇市で儲けたって言って。
最初のコメントを投稿しよう!