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午後16時頃、バイトが終わり、俺は住処であるオンボロアパートへの道を辿っている。
燃えるような夕日の色に、不釣り合いな冷たい風が頬をなぞる。
電信柱の影が長く延びて、まるで一枚の絵のような錯覚を感じる。
住宅地にも関わらず、人気が無い道だ。
不意に足を止める。
約10mほど先に、見慣れないものが見えた。
「学生?」
思わず声に出した。
近くに寄ってみると、制服を着た市松人形のような少女が、段ボール箱に入っている。
高校生に見える少女は、何故か真っ赤なエレキベースを抱えて、無表情に前を見つめて動かない。
段ボール箱にはこう書かれている。
(捨てベーシスト。腕は確か!拾ってください)
自分もバンドをやっているが、果たしてベーシストはこんな風に捨てられる者かと考えてみる。
…俺の虫食いだらけの脳みそでは答えが出ない。
「お姉さん、何してるの?」
少女は、ゆっくりと顔を上げた。
「やぁブラザー、捨てられてます」
「誰がブラザーだ。なんで捨てられてるんだよ?」
「ライヴでエキサイトし過ぎて、お客さんの鼻に指を刺しました」
「…で?」
「お客さんは鼻血ブー、怒ったリーダーに捨てられました」
俺はポケットからフリスクを取り出し、口に入れる。
メンソールで頭を起こさないと、冷静でいられそうにない。
「姉さん、親は?」
「両親は、インドでヘビメタバンドを組むと言って出ていきました。生活費だけは毎月振り込んでくれてます」
少女はグッと親指を立てた。
「家に帰りなよ」
「家は人に貸してます。家賃が副収入になりますから」
数秒、少女と見つめ合う。
「君は、バカだろう?」
少女の顔色が変わった。
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