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彼は、泣くでも騒ぐでもなく、ただじっと、待っていた。
不意に、『箱』が乱暴に開かれた。
「ほら見ろ。私の予感は当たっていた。言っただろう?」
始めて見る光に目を細め、初めて聴く声に耳を澄ました。
スーツ姿の男が、こちらを覗き込んでいた。
「おはよう。こんばんわ。ようこそ。いらっしゃい。さて、どんな挨拶がふさわしいか考えていたんだが……」
紳士は胸ポケットから、ハンカチを取り出し、広げて彼の顔を覆った。
「やはりこれが一番か。『さようなら』」
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