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他の部屋も、同じ構図なのだろう。
出入り口、窓とベッドとテーブルの位置を確認して部屋を出る。
安ホテルの割に、ドアの設備はなかなかだ。
そしてもう一点をあげるならば、Barも立派なものだった。
薄暗い照明とタバコの煙が、独特の世界をかもし出している。
エンはカウンター席に座り、ウォッカを注文した。
透明なグラスに注がれた、無色透明な液体。
血の赤。ナイフの銀。灰色の空。紫の海。白い氷。『箱』の中の、世界の黒。
色に溢れた世界で、透明であることはなんと美しいことか。
店内はある程度にぎわっていた。
静かなジャズが流れている。悪くない。
空になったグラスを置き、エンはカウンターの奥で飲んでいる男に向かった。
相手は40代くらいだった。
「何か用か?」
男は顔を上げて、エンに尋ねる。
「フランツベル?」
「そうだが?」
その言葉が終わる前に、フランツベルの首は胴体から離れていた。
ゴトン。と鈍い音がしたのは、転げ落ちた首だ。
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