バットとの出会い

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 夏休みに、おじいちゃんの家に遊びに行った時の事だ。縁側で日向ぼっこをしていると 「助けて、ねえ助けて」    誰かが呼んでいる。どうやら、雨戸の戸袋の中からのようだ。 「そこにいるのは誰?」    僕は、そっと声をかけた。 「僕は、この家の屋根裏で暮らしているコウモリだよ。 戸袋に引っ越そうと思って、中の様子を見ていたら、クモの巣にこんがらかって動けなくなってしまったんだ」 「えっ、君は言葉が話せるのかい?」 「いや、話せる訳じゃないんだ。超音波で君に伝えているんだよ。それより、早く助けておくれよ」    僕は「うん」と頷いて、ゆっくりと戸袋の下の方に手を差し込んだ。  直に、フワフワとした毛糸玉の様な物に触れた。  そっと引っ張り出して、埃やクモの巣を解いてあげると、中から声の主が現れた。 「ありがとう。人間に伝わらない筈の超音波が、君には良く聞こえたね。でも、お陰で助かったよ」 「僕は目が見えない分、耳が凄く良いんだ。それに聞こえたというよりも、何か心で感じたんだ。誰かが呼んでいるって」    僕はそう言いながら、そのコウモリにそっと息を吹きかけて、残った埃を吹き払ってあげようとした。すると 「痛たたたっ。どうやら羽を痛めてしまったようだ。どうしよう?これじゃ身動きが取れやしない。困ったな」  その瞬間に、僕はひらめいた。 「じゃあ、僕のポケットで暮らすといいよ。ほら入ってごらん」  僕はコウモリが痛くないように、そっとシャツの胸ポケットに入れてあげた。  コウモリはポケットの中でモソモソと動きながら、こう言った。いや、御機嫌な信号を送って来た。 「こいつは良いや。楽ちんだ。でも一つお願いがあるんだ。おいらは蚊や小さな虫を食べるから、時々近くの河原に連れて行って、このポケットを広げて欲しいんだ」   そして、こんな提案をしてきた。 「もし、そうしてくれるなら、おいらが君の目の代わりをして何所にでも連れて行ってあげるよ」  今度は僕が、御機嫌に答えた。 「OK、交渉成立だ。僕は誠太郎。君は?」 「おいらはバットって云うんだ。よろしく」  こうして、僕とバットの新しい生活が始まった。
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