失恋

2/5
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「荷物、ちゃんと全部持ったの?」 愛華――本名は洋二という――は、冷たくそう尋ねた。 愛華は女の名前を名乗っていても、見た目は女の格好をしないことがほとんどで、この季節は大体いつもゆったりしたニットとジーンズを着ている。 綺麗好きの愛華がきちんと洗濯して畳んでくれていた俺の服、それと男用の化粧水、夏に愛用していたビーサン、歯ブラシなどを、俺はざっくりと紙袋の中に入れた。 「うん。バッチリ」 俺はわざとらしいくらい明るくそう答えた。 「そう」 それでも愛華はやはり冷たく言い、顔を俯かせた。長いくせのある前髪が、長い睫毛にかかっている。 「じゃあね、ルゥちゃん」 ハグもなし。 俺が外に出ると、バタンとドアを閉められ、ガチャッと鍵を掛けられた。 ……俺は振られた。 日曜の午前中だった。家の外は、やたらいい天気で。 明るい陽射しを浴びながら、俺は一人きりで過ごしていた日常を、懸命に思い出そうとした。 まずは愛華の家の最寄り駅まで歩きながら、朝飯をどうするか考える。 ……いいや。もう電車に乗ってしまおう。 駅のホームには、俺の父親くらいの歳のおじさんと、若いギャルが二人、それから太った若い男が居た。 (うわー、ねえなー……) 若い男は眼鏡を掛け、ダサいグレーのパーカーを着て、iPodを聴いていた。ポップな音楽なのか、唇を尖らせて何か口ずさんでいる。 ……英語?うわ、洋楽聴いてるよこいつ……何か余計気持ちわりぃ……。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!