猫、少女に出会う

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 わしは猫だ。  タマやらブチ、チビ等といったありがちな名前や、比助や十毛牟といった少し捻りのある名前でも呼ばれている。 もっとも自分では美しく光るこの眼から銀(シロガネ)彦と名乗っているが、人に伝わることは滅多に無い。  そもそも猫の言葉を感じる余裕など、今の人間には残されていない。  なぜなら世間は織田とやらが今川の御大将を討ったとかで荒れている。人の神秘的な感性等余裕が無ければ働く物ではないのだ。  今のこの日の本の国でそういった感性を持てるのは子どもか世捨て人、良くてまともな高僧くらいだろう。  ワシこと銀彦はこれでも猫としてはかなりえらい部類に入る。  理由としては30年を超える猫にあるまじき寿命と犬に引けを取らない見事な体躯。天狗を知恵比べでねじ伏せる頭脳。さらには山神とも交流できる神秘性だ。  あと30年も生きれば猫神となるであろう。  今の時点でもなぜ尾が分かれぬのか他の猫どもから不思議がられているが、そういうものなのだと割り切る事が出来ぬから奴らはタダの猫なのだ。  そもそも別に尾が分かれずとも猫又になることがあるのをタダの猫共は知らんのだ。もっともワシ自身も山神から話を聞くまでは猫又は尾が分かれるものと信じていたが。  そう考えるとワシは既に猫又であるといえるかもしれんな。  今日は義元殿の討たれた場所へと足を運んだ。  彼はこの戦乱の世でもワシの意思を読み取ることが出来る、数少ない御人だった。  友といえるほどの仲ではなかったものの、知人を失い気が沈んでいた。  だから油断していたのだろう。  殺気に気付き、身を捻った時には既に遅く、飛礫が胴へとめり込んでいた。  ワシの体は衝撃で数度転がり、逃げようとする意思に反して痙攣を起こす。
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