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その家は医者でもやっているのか、少女は手馴れた様子でワシの体へ包帯を巻いていく。
おかしなことに気を失う前には間違いなく割れていたはずの腸の痛みが無い。
まさかこの少女が神通力でも使ったのかと疑うが、そんな訳あるはずが無い。
そういった力を持つ人間ならすぐに気付ける程度の力をワシは持っている。
「母さん。この猫飼っていいよね?ちゃんと手当てできれば良いって約束だったもんね」
なんにせよワシはこの娘に命を救われたのに違いな無いだろう。例え何らかの理由で内臓が無事だったとしても、この娘に拾われなければあそこで獣か人の腹の足しになっていた確率は高い。
受けた恩は返す。それが世の理と言うもの。
ワシは一生をかけてこの娘を。いや、この家を守っていく決意をした。
「いいわよ、約束だからね」
「それじゃあ名前付けなきゃ」
「それじゃあ桐っていうのはどう?ちょうどこの子を見つけたのは桐の木の下だったし」
母の提案の聞き、少女は顎に手をあて考え始めた。
『ワシの名前は銀と書いてしろがねと読み、銀彦だ』
ワシはそう呟いた。どうせ人間にはにゃあとしか聞こえん。
そうそう義元のような人間などおらんのだ。
しかし少女はきょろきょろと首を動かし、やがて口を開いた。
「この子の名前は銀彦。気付いてみれば凄い奇麗な銀色の目をしてるのね、あなた」
驚くワシの頭を彼女は優しく撫でた。暖かな温もりが全身に伝わる。
「私の名前は椿って言うの。これから宜しくね、銀彦」
もしかしたら神と言う奴はいるのかもしれないとわしは思い始めた。
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