猫、少女に出会う

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 日が暮れ、周りが暗くなり始めたというのに関わらずこの家の主人は戻らない。  患者のような物が居ないことからどうやら別段医者の家と言うわけでもなく、単純に手当てが上手いのは時世のせいらしい。  裕福でもないのに関わらず、ワシのような野良猫の手当てをするとは見上げた娘と言うところ か。 「母さん。明日には父さん戻ってくるかな」 「どうだろうね。清洲へ出稼ぎとか行ってたけど、無事に戻ってきてくれればいいんだけどね」 「上総介様はちゃんと庶民の事を考えてくださっているか大丈夫よ」 「街では安全だったとしても道中はまだ、この間の戦のせいであまり穏やかじゃないからね」  考えれば考えるほど不安になったのか、椿は不安げにワシを見つめる。 「銀彦。お前は父さんのことなんて知らないよね?」  当然知る由も無い。初対面の家族の事情など把握できたらむしろ怖い。 「多分薬草とかを売りに行ったと思うんだけどね。最近物騒だから売れるはずだって言ってさ」  そんなワシの心情など気付く術も無く、椿は語り始めた。 「父さん結構お人よしでね。ここら辺には医術の心得がある人が自分しかいないからって、無償で皆のこと診てあげるんだ。おかげで家は万年貧乏。だからたまに出稼ぎに行ってくるんだけど、今回はいつもより帰りが遅いんだ」  その後椿は父親のどんなところが優しいか、かっこいいと思ったところ等親自慢を始めた。  しかし普段よりも遅いとなると確かに心配になるのは自然である。そして話の限り中々に好人物のようだ。 「つまり椿もお父さんが大好きってことね。猫に頼んでも仕方ないし、明日になったら村の人に頼んでみましょう」  どうやら早速恩を返す事ができそうだ。  体の痛みも大分引き、動きに支障が出ない程度には回復している。  母親に指摘され赤くなる椿にニャアと鳴き、一礼するとワシは外に駆け出した。 「あ、銀彦……行っちゃった。まだ治ってないだろうに」  手を伸ばしたようだがワシに届くはずも無く、腕は空を掴んだだけだった。
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