鬼の棲む寺

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「だから、さよならだ、前鬼、後鬼」  俺は寺の中に巣食う鬼たちに告げる。 「お袋の実家に帰るんだって。もうここにはこれない。俺のこと忘れないでくれよ」  さようなら、と見えない鬼たちに向かって手をふった。 「我が主、どうか壮健で」 「主が帰還するまで、我らはしばし眠りにつこう」  話し相手だった鬼との別離は、両親の離婚より悲しかった。    声だけの存在は信仰に生きる無口な父親よりも親しかった。
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