69人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
産み落とされたちいさな命は、大きな産声をあげた。
兵士たちは初めて見る命の誕生に歓声を、侍女たちは涙を流して喜んだ。
待望の第一子の誕生。
国中が歓喜に湧いた。
赤子が名を授かるのはそんな夜。
「ふふ、元気な子だ。義、ご苦労であったな。疲れただろう?もう休め」
「いえ…御心配には及びませぬ。
輝宗様こそ、もう夜も更けてきました故、お疲れでしょうから、」
義と呼ばれた黒髪の美しい女は口元を綻ばせ笑う。とても幸せそうな微笑みだった。
対して、輝宗と呼ばれた男は困ったように肩を竦ませる。
「情けないが…私は此処で祈っていただけさ。男というのは肝心なところで役にたたない」
「まあ、そのような。…とても心強う御座いました。
ところで、名は如何なさいますか?」
義姫が傍らで眠る赤子を撫でながら輝宗に問いかけると、よくぞ聞いた、という表情を浮かべて、懐から一枚の紙を取り出して広げてみせた。
それに大きく書かれている一文字。
「籐…に御座いますか?」
「ああ、これからこの子は籐姫だ」
「籐姫…きっと美しい子になりましょう」
いったいこの子はどんな娘に育つのか。
くすくすと笑いあう2人。
とても穏やかで、温かな時間だった。
.
最初のコメントを投稿しよう!