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「姫様!姫様――っ」
慌てたように駆け足で城の廊下を走るひとりの若い女。進行方向にある部屋のひとつひとつを見て回るが、彼女の探し人は見つからない。
女の名前は喜多という。
月日がたつのは早いもので、二年前に誕生した籐姫の世話役を命ぜられた。
「ああ、姫様は何処へ往かれたのか!」
これからお琴の時間だというのに!
若干疲れた顔色でそうこぼし、深い溜め息をついて、再び彼女は歩きだす。
姫を呼ぶ声は最早叫びに近かったとか。
喜多が城中を探し回っている中、そんなことをさせてる本人はというと、母の部屋でのんびりと時を過ごしている。
「かあさま、このおとはなんですか?」
「ふふ、それはな、腹にいる赤子の心臓の音よ」
「“しんおん”とやらにございますか?せんじつ、きたにならいました」
「ああ。籐は物知りであるな」
母の義姫は二人目の子を授かっていた。
籐姫は大きくなったその腹に耳をくっつけながら、そんな会話を交わす。義姫が頭を撫でてやると、籐姫は愛らしくふにゃりと笑った。
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