鼓動の高鳴り

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 山下 光(ヤマシタ ヒカリ)  クラスではあまり目立つような人ではない。  むしろ影のような存在で、誰も彼女を気にかけていない。  そこに目をつけた。  屋上に呼び出した、彼女が最初の標的。  「あの……、何か……用でもあるん……ですか?」  頬を赤らめ、目線をそらした山下さんが詰まりながら言った。  自分の胸に手を当てて言う。  「目をつぶってくれないか?」  彼女は何も言わずに目をつぶる。  しばらく沈黙が続く。  鳥のさえずりが聞こえている。  「ザクッ」  沈黙を破ったのは、彼女の腹の筋肉の繊維を断ち切る音だった。  家から持って来たナイフを両手で握りしめて、躊躇無く突き刺した。  彼女はその場に崩れ落ちる。  鮮やかな赤色の液体が辺りに広がっていく。  それは、それは綺麗で、見とれる程だった。  彼女は悲しそうな、それでいて憎しみを含んだような、強い眼差しでこちらを見ている。  気持ちが高ぶって、繰り返し刺し続けた。  その感覚を忘れない為に、何度も刺した。心を込めて……。  人を殺すのは、案外簡単だった。  刺したときに、ちょっと申し訳ないなと思うぐらい、その程度だった。  まず、一人目。  楽しみを知った幼い殺人鬼は、もう止められない。  現在1人死亡。  残り、クラス30人。
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