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「波が流れる、か。めっちゃ流されとるやないか」
おっちゃんが豪快に笑いながら言う。
その言葉が体中を駆けめぐり、終いには心臓を貫いた。
めっちゃ流されてる。
まさにその通りだ。
昔から自分の名前は嫌いだった。
どこか浮ついた感じで、気に食わなかったのだ。
だがその名前をつけた両親のうち、父親は波流が幼い頃に女と出て行き、女一人で育てていた母親も半年ほど前から疲労が祟ってか体調を崩している。
そんな状況を、波流自身も学校に行かない言い訳にしていた。
こんな境遇なんだからしょうがない、と。
だから、『波流』という名前は今の私にはちょうどいいのかもしれない。
波流は心の中で頷いた。
行き場もなく、ただフラフラと回りに流されてさまよう自分にとっては、最適だ。
最適な、はずだ。
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