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「ふわぁ…………」
思わず大あくびを漏らす。
そんなのどかな春の季節。
部屋の蔀を開けては、眼前に広がる景色に目を細める。
湖を囲うように咲き乱れる桜。その花びらを浮かべ、空の青を映して揺らめく水面に自然と笑みが漏れる。
『主様ー!主様ー!!』
「いるよ、どうかしたのかい?」
『京で祭りやってるぜ。皆行こうって話してる』
戸越に話しかけてくる弾んだ声音に、あぁ……そんな時期になったかと思う。
祭りに行きたいのだろう。ウズウズした気配が伝わってくる。
「いいよ。行っておいで、皆にもそう伝えるように」
『よっしゃー!!ありがとう、主様』
「ふふ、はしゃぎすぎて怪我するんじゃないよ」
『はーい。って、主様はいかないの?』
「ん?そうだね、私も行くとしよう…………なんだか、いい事がある気がするんだ」
『ふーん、分かった!じゃぁ、いってきまーす』
「いってらっしゃい」
そう言いつつ、彼女はゆるりと立ち上がる。
再び外に視線を向ければ、紅い唇を楽しげに歪める。
「そう、とても良い事がありそうな…………そんな天気だ」
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