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それから公園を後にして、また当てどもなく歩いて。
どちらからともなく繋いだ手は、何となく離しがたくて。
おのずと目的地が決まって。
妖しいネオン街の一角で、無駄に豪奢な一室で。
僕は、彼女を、抱いた。
彼女の体はあの時思った以上に、病的なまでに、軽かった。
「……傷の舐めあいだな」
嘲笑。
まあ、たまにはそういうものいいだろう。
どうせ体にも意味などなかったのだろうし。
僕たちは何事もなかったかのように駅まで歩き、それぞれの路線で別れた。
さすがに気が咎めるような気もして「送るよ」と提案したが、それは全力で一蹴されたのだった。
「やぁだ!あんたに家まで送られるとか、有り得ないんだけど。彼氏でもあるまいし」
ならば僕は頷くしかなかったわけで、独り、電車に揺られて家路についている。
自宅の最寄り駅で降りると、風は勢いを増していた。
あっけらかんと手を振った霧島の「ばいばーい」が、頭の中にはこびりついていた。
「ばいばい、か」
『さようなら』よりはマイルドで『またね』よりはどこか心もとない、別れの挨拶。
同じく「ばいばい」と返した自分の手のひらに白い息がかかる。
生ぬるさはすぐに消えて、温かみを知ったからこその寒さが身に凍みた。
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